みずほ総合研究所
鈴木哲夫
明治大学校友会厚木地域支部
『躍 進 す る 中 国 経 済』 を 聴 い て
鈴 木 良 二 (昭35 法)
平成十八年の地域支部総会の記念講演は、みずほ総合研究所上席主任研究員内堀敬則氏(平成3商)の中国経済についての話であった。「その発展のメカニズムとリスク」と副題に示すように、中国経済の現状を詳細なデーターを駆使しての的確な分析は大変興味深いものがあった。 内堀敬則氏を講師に招聘するに当たっては、私にも少しく関与する処があった。総会の記念講演の講師を誰にするかが常任幹事会で話題になったとき、私が内堀氏の名前を挙げたのである。二年程前のことであるが、平成16年2月11日付けの日本経済新聞に中国経済についての内堀氏の論文が掲載されていた。筆者の略歴に明大卒業とあるのを見て、母校出身の気鋭のエコノミストを頼もしく思ったものである。掲載されていた論文の内容も出色のものであった。充分な統計資料のない中国のことである。また全体主義国家でもある中国の公式発表は、政治的な意図もあり、必ずしも額面通りには信用出来ない場合が多い。その様な状況下での中国経済の考察は、通商関係のある相手方から実態の裏付けを取る作業が必要である。中国経済の実態把握は大変な労力と困難があることと推測される。それだけに、内堀氏の詳細な分析と的確な洞察力に感心したのである。 今回の講演は大きく四つのテーマに分けて話しを進めた。1.中国経済の現状をどう観るか、2.日本企業の対中進出状況、3.中国経済の行方を左右するポイント、4.まとめ、である。以下その順序に従って内堀敬則氏講演を整理してみよう。内容に不充分、不適切な処があったら、それは総て筆者の責任である。ご寛恕を願いたい。 T.中国経済の現状をどう観るか ・中国経済の規模(2005年末・日本対比)
※外貨準備高は06年1月末に世界第1位に(中国8452億ドル、 日本8328億ドル) ・ 改革開放以後(1978年が改革開放に着手の年)、中国経済は年平均9%を超える高度成長を記録。2003年以降は10%の成長を持続。 ・ その結果、「人口大国」「国土大国」だけでなく「経済大国」の顔を持つようになった。 ・ 「世界の工場」として日本との関係も深くなる。2004年の世界における中国の生産高のシェアは下記の通り。 パソコン 75.1%(日本2.7%) デジカメ 44.4%(日本41.5%) カラーテレビ37.5%(日本3.6%) ビデオ 63%(日本2.5%) 携帯電話 30.4%(日本7.9%) 自動車 7.9%(日本16.4%) ・ 不動産、素材分野での投資が過熱、景気引締め等に拘わらず投資は加速している。 ・ 中国経済は輸出(31%)と投資(43%)の伸びに依存した高度成長であり、反面、個人消費は相対的に低い。 ・ 電力不足を背景としたインフラ分野への投資、地方政府による小型発電所乱立の誘発など、投資内容には歪みと偏りがある。 ・ 輸出の高い伸びは貿易摩擦の激化を招いている。(アンチダンピング被発動国のランキングは2位の韓国123件の3倍近くの317件と第1位) ・ 今後の個人消費の喚起が、投資・輸出の過度の依存から脱皮出来るかどうかが問題。 U.日本企業の対中進出状況 ・ 1978年改革開放、1992年南巡講話、2001年WTO加盟が転換点となり、2003年には直接投資の受入額世界第1位となる。 ・ 日本企業の対中投資は製造業が主導。 海外に在る日本の現地法人の数は、中国 4040社、米国 3554社と断然中国が多い。 ・ 日系企業の売上高は、93年度6187億円が03年度6.9兆円と11倍に拡大、年率28.6%の増加。 ・ 中国市場における競争環境は香港(42.9%)が他を圧倒し、米国(8.5%)と日本(8.3%)がほぼ拮抗、足元では韓国(4.7%)が急増している。その他、EU、台湾、英領ヴァージン諸島、シンガポール等アジア企業を含めた「大競争市場」となっている。 V.中国経済の行方を左右するポイント (1)人民元切上げの行方 ・ 2005年の貿易黒字は1000億ドルを超えて世界第2位となる。不均衡是正のため米国等から元切上げを要求。 ・ 2005年7月為替制度を変更したが対米ドルレートの切上げ幅は2%と小幅。2桁の切上げ幅が必要と言われている。 ・ 然し、日本や米国の対中貿易は補完的であり、中国からの輸入品には中国に進出した自国企業の製品も多いため、急激な元高は中国経済の大きなダメージになると共に対中輸出の大幅な減少も懸念される。中国自身も失業問題の深刻化、不良債権問題再燃回避のため、急激な元高政策をとることが出来ない。 ・ 為替、金融、資本のトリレンマ(1.為替レートの固定性、2.金融政策の独立、3.自由な資本移動の三要素の同時達成は不可能)の下に、中国は金融政策の独立と自由な資本移動を重視する方向へ進むものと見られる。将来、変動相場制移行への第一歩。 (2)所得格差の拡大 ・ 1990年代に入り中国の所得格差は拡大。政府は農村内陸部振興などの是正策を打出すが難航。教育、就業機会も不平等。……放置すれば深刻な社会不安を招く要因となる。 ・沿海部・内陸部の対比(人口・GDP全体に占める格地域のシェア)
・ 集団陳情、抗議運動が増加している。2005年は87千件400万人。 直接原因は農地強制収用、都市住民の強制立退き、低賃金、賃金の遅配欠配、リストラ、破産、環境汚染等。公務員の官僚主義、汚職腐敗も原因となる。 (3)エネルギー・環境問題 ・ 中国のエネルギー効率は低く、GDP当たりのエネルギー消費量は日本の6.5倍、ドイツの5.9倍、アメリカの3.6倍。エネルギー価格の上昇に対して脆弱な体質。中国の省エネの成否は世界のエネルギー問題にも大きな影響を与える。 ・ 大気汚染、水不足、水質汚染も深刻。環境問題絡みの陳情が増加。清治、社会の安定性維持のためにも環境対策は重要。 (4)政治・法制度の問題 ・ 中国の現状は、世界の「中の下」クラスの所得水準の国と比較すると、統治の質に遜色はない。然し、世界平均と較べると、依然として政府の「統治の質」は低い。 ・ 特に、「言論の自由・説明責任」に大きな問題あり。中国の贈収賄の規模は対GDP比3〜5%と言う。汚職が暴動を生んでいるとの報道もある。 (5)新五カ年計画が目指す「調和のとれた社会」の建設 ・ 2006年〜2010年の「第11次五カ年計画」は従来の「成長第一路線」から「調和のとれた社会」の建設へと政策の軸足を移す。 ?資源節約型・環境にやさしい社会の建設。 ?過剰投資に代表される、やみくもな高成長追及路線の否定。 ?都市・農村の格差是正。 ?地域間格差の是正。 ?所得向上偏重路線から生活の質向上路線への転換。 ?対外開放と国内の発展とのバランスの配慮。 ・ 中国政府は課題を的確に認識していると言える。今後は調整力、実行力が問われる段階である。 W.まとめ:中国の課題は世界の課題 ・ 中国の潜在的な成長性は高い。2041年には中国が世界最大の経済大国になるとの予測もある。(ゴールドマンサックス証券) ・ 但し、所得格差拡大、構造問題等々経済大国化の課程は山あり谷あり。 中国の景気変動が世界経済に及ぼす影響は更に強まる。対中輸出や中国ビジネスへの影響、食糧・石油・鉄鉱石などの国際価格の変動は間接的に資源貧国の日本にも影響が及ぶ。 ・ 日中両国は微妙な関係にあるが、中国との相互信頼関係の構築は不可避の課題。互いに「ひとりよがりな国益の追求」を回避。 ・ 中国の持続的・安定的な成長は日本・世界にとってもプラス。
以上