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温 泉 ス ト リ ー キ ン グ

小  林  由  比
(昭53 短法)




  「いやだー、何あれ?」
  驚きの声を上げた友人の視線を追うと、そこには素っ裸の男性が肩に手拭いを掛けただけの姿で歩いているではないか。
  所は岩手・夏油(げとう)温泉。湯治客や日帰り客で賑わう初夏の午後である。もはやオヤジの裸ごときに顔を赤らめるお年頃ではないが、到着早々のこの光景には度胆を抜かれた。
  気が付けば他にも、前を隠しただけの男性たち、向こうではタオルを胸から垂らしただけの年輩女性が、後ろからは丸見えの姿で橋を渡っている。
  夏油温泉は渓流沿いに泉質が異なる風呂が点在し、古くから栄えた湯治場である。山奥の不便さにもかかわらず、昨今の秘湯ブームで人気が高まっている。川岸は廊下か遊歩道と言ったところか。風呂から風呂へのハシゴをする者、ベンチで昼寝をする者など、皆それぞれの温泉を楽しんでいる。
  宿泊棟の片隅には湯治客のための食品雑貨屋があり「いつの時代のものか」と思うような調理道具や衣服が売られていて、何十年も前にタイムスリップした気分になれる。
  我々も露天風呂に行ってみた。丁度女性専用タイムで、缶ビールを飲みながら熱い湯に入る。木々の緑が濃い。せせらぎ、鳥の鳴声、谷を渡る風、至福の時が過ぎていく。
  山菜と川魚の夕食の後は闇に紛れて混浴風呂に挑戦するも、男性に先を越されて断念。
  だが翌朝、前にタオルをあてただけの女性が、子供と一緒に歩いているのを見た。その大らかで自然な姿。
  「あっ、これで良かったんだ」ここは温泉だ。裸で堂々として何が悪い?
  今までの私の人生、人目を意識しすぎていなかったか?自分の意思に背いたことはなかったか?これからは自由に生きよう。でも恥らいも失いたくない。裸一つで生き方まで考えさせられた夏油温泉だった。

 

 
 
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